副社長は束縛ダーリン
添加物の配合を少しずつ変えたマッシュポテトをシャーレ二十個分、測定器にかけ終えたとき、「朱梨ちゃん」と後ろから声をかけられた。
振り向くと、二班の男性社員の中で一番若手の二十九歳、野田さんが、水色のエプロン姿で立っている。
真面目で大人しく、見た目の特徴に乏しい彼は、印象が薄いと言われがち。
でも過去に三度もレシピを商品化に結びつけた強者でもあり、その知識を惜しげもなく私に教えてくれる、優しくて尊敬できる素敵な先輩だ。
「これから新作レシピで試作しようと思ってるんだ。その作業が終わってからでいいから、手伝いお願いできるかな」
「ちょうど終わったところです。喜んでお手伝いしますよ。
野田さんのレシピ、とっても楽しみです!」
数値をメモしたノートを胸に抱きながら、ニッコリと笑いかけると、彼の頬がほんのり色づいた。
野田さんは照れ屋な性格で、去年の今時期は、目が合うだけで赤面されて、こうして話しかけてはくれなかった。