【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 

それをぼんやり眺めながら河川敷の土手にしゃがみこんでいると、背後から声をかけられた。

『避難所に行かないの?』

聞き覚えのない声に、不思議に思って振り向けば、私より少し年上の男の人が立っていた。

背が高く、綺麗な笑顔の、見たことのない人だった。

誰だろう。
そう思いながら、無言で首を横に振る。

『缶詰とか飲み物とか、配ってるよ』

そう言われ、もう一度首を振る。

すると、その人は私の可愛げのない態度に気を悪くした様子もなく、『そっか』と呟いて私の隣に座った。

『缶詰なんていらないよなぁ』

そのつぶやきが少し寂しそうに聞こえて、私は慌てて口を開く。

『あの、私が首を横に振ったのは、別に缶詰がいらないからではなくて、避難所に行きたくないだけですから』
『そうなの?』
『そうです』

驚いたようにこちらを見たその人に、強く否定しすぎただろうかと、恥ずかしくなって前を向く。

『そっか』

その人は頷くと、手に持っていた丸いものをポーンと片手で宙に放り投げた。
綺麗な放物線を描き、また手のひらに落ちてくる銀色の缶。

私はその軌跡を、ぼんやりと眺めていた。

 
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