【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
「老衰ですね」
いつもお世話になっている動物病院の先生が、穏やかな口調でそう言った。
「ハチくんは幸せですね。こうやって大きな病気もなく穏やかに息をひきとることの出来る子は、あまり多くはありません」
診察台の上に力なく四肢を投げ出し横になったハチを見下ろして、ねぎらうように優しく話す。
「ご主人様の冬木さんが予防注射も検診も食べ物も、いつも気にかけてくれたおかげですね」
診察台の上にいるハチは、もう息をしていなかった。白と黒の毛皮は柔らかなままなのに、ピンク色の肉球は鮮やかなままなのに、もう瞳を開いてこちらを見ることも、可愛い声で鳴くこともない。
「天寿を全うするまで元気でそばにいてくれたハチくんを、ほめてあげてくださいね」
ぼうぜんと肩を落とす私に、獣医さんはそう言った。
けれど言葉が耳を通り過ぎるだけで、全く頭に入ってこなかった。
ハチが、死んでしまった……。
そのことがショックで、どうしていいのかわからなかった。
ただただ呆然と立ち尽くす。
「詩乃ちゃん……」
その時、肩に大きな手を置かれ顔をあげると、心配そうな顔をした専務がこちらをのぞきこんでいた。