【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
悲しさと心細さで叫びたくなる衝動をこらえ、ハチの体を抱いたまま立ち上がる。
起き上がった膝が、ガクガクと情けないほど震えていた。
「病院に、つれていかなきゃ……」
自分に言い聞かせるようにそういって、ハチの体をタオルケットで包む。
溢れそうになる涙を必死でこらえながら、マンションの外に飛び出した。
かかりつけの動物病院まで歩いて十分。
タクシーを捕まえる時間すら惜しくて、走ろうと決めて外に出る。
タオルケットに包まれ弱々しい呼吸を繰り返すハチを抱きしめて駆けだすと、背後からクラクションが鳴らされた。
「詩乃ちゃん!」
聞き覚えのある声。振り返ればそこに専務がいた。
「専務……」
さっきマンションの前で別れて、まだここにいたんだ。そう思いながら私は必死に涙をこらえる。
「どうしたの?」
血相を変えてマンションから飛び出してきた私に、専務は驚いて車から降りてきたようだ。
「ハチが……、飼っている猫の様子が、おかしくて。び、病院に……」
言いながら、鼻の奥がつんと熱くなる。人に話すと心細さが増して、勝手に涙が溢れてきそうになる。涙をこらえてそう言うと、専務は私の腕の中を見た。
タオルケットにくるまれたハチは、それまで閉じていた目を薄っすらと開け、細い声で「にゃー」と鳴いた。
「乗って」
専務は短くそう言って、ハチを抱いた私を助手席に押し込める。
「でも、専務は社長との約束が……」
「そんなのどうでもいいから。病院の場所教えて」
専務は乱暴に車を発信させながら、戸惑う私の言葉を遮って強い口調でそう言った。