あなたの声が響くとき





「今日からトランペットパートに入ることになりました。2年5組の葛西 律花(かさい りつか)です。よろしくお願いします!」


高校に来て二度目の5月。

そして今日から始まる新しい高校生活。

勢い良く頭を下げた私に、先輩方は明るく微笑みかけてくれる。

後輩と同級生の表情はあまり芳しくないけれど、仕方ない。
敵が増えた、そう考える人だっているし、中途半端な気持ちで途中入部なんてしやがって、なんて考える人もいるだろう。

私だったらそう思う。

気まずくないと言えば嘘になる。
でも、これが強豪なんだと思えばそれほど気にはならない。

気持ちが中途半端かそうじゃないかは、これから示せばいい。


「よろしくねー!私はパトリの3年2組北見 香音(きたみ かのん)だよ。
じゃ、3年から自己紹介してこっか」


北見先輩の軽やかな笑顔と一緒に、先輩の膝の上の銀色が光った。

パトリとは、パートリーダーのこと。

トランペットパートは、今日から入る私と新入生含め、総勢9名。
3年生3人。
2年生3人。
1年生3人。

次々に自己紹介されて、早く覚えようと神経を集中させる。

春らしい風が、放課後の視聴覚室に吹き込んで、私の集中を途切れさせる。

譜面台に置かれた、楽譜のページがパラパラと動いて、抑える人とそうでない人。

次の自己紹介は、間を置いて紡がれた。


「…2年2組の東条 響(とうじょう ひびき)です。よろしくお願いします」


無表情に無感動に、若干無愛想にも取れる言葉と態度。

細い黒髪は、無造作なセット(と呼べるのかは別にして)。
肌は白く、肩幅もあまり無い。

こんなに"無"で形容できる人もなかなか居ないけれど、私は感動を覚えていた。

じっと強く見つめる私に、彼は背を向けるように、一瞬外を見た。



――――…この人が、私が2年生で吹奏楽部に途中入部したキッカケ。







――――――……それは4月のこと。



新一年生への部活動紹介。


無所属の私は、ただぼーっと、生徒たちが入れ替わり立ち代わり紹介していく様子を眺めていた。



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