ビターチョコをかじったら
「あ?」
「…だから、恥ずかしかっただって。だって相島さんは仕事のできる、職場の同期の相島さんでしかない。…そんな相島さんがか、彼氏…っていうのが、…えっと、違和感っていうか…あ、違和感じゃない。そんな睨まないで。」
「睨んでねーよ。元々こんな顔だし。」
「元々イケメンってことになってるでしょ。」
「その言い方だとお前はそう思ってねーみてーだけど。」
「思ってるって!…だ、だから向き合うのに苦労してるっていうか…乙女心は複雑なのー!」
「その年で乙女もくそもあるかよ。」
「くそって言った!」
「じゃーなに、お前も触ってほしかったのかよ。」

 難しい問いだ。答えは簡単だけれど、答えるのは難しい。

「…う、え、…えっと…ね…。触ってほしいって言うとなんか…ちょっとやらしさあるけど…。あ、頭撫でてほしいなーとか、手繋いで歩きたいなとか今ぎゅーってしてほしいなとかは…あ、ある、けど。ほ、ほら!仕事で疲れてたから!」
「…そういうのさ、早く言ってくんね?」
「うわ!」

 いきなりぎゅっと頭を横抱きにされる。ちょっとだけ乱暴に頭を撫でられると相島の香りが強くなった。

「髪ぐっしゃぐしゃ!」
「あと、手だっけ。」
「人の話聞いてます?」
「聞いてんだろ。頭撫でた。手出せよ。」
「いや、この距離で手を繋ぐって無理あるよ。…ってか、今更恥ずかしくなってきたから無理っていうか…。」

 紗弥は思わず相島から目を逸らした。こんなに至近距離で会話をするのはもしかしたらあの日以来かもしれない。

「…それもそうだな。じゃあこっちか。ほら。」
「…え?」

 相島が両腕を広げている。様になっているのはちゃんとわかっている。職場の女子なら迷わず飛び込むところだろう。

「まさか、飛び込めと?」
「当たり前。我慢してたのバカみてぇだし。」
「いやいや…無理!そんな可愛いことできるタイプじゃないってわかってるでしょ?」
「わかってるけど、だからこそ飛び込んでもらいてーんだよ。」
「いや、わかってるよ、相島さんのそういう思考パターンは。でもですね、ここは私の羞恥心が勝ちます。優勝!」
「打ち勝てよ。仕事のできるイイ女なんだろ、お前。」
「仕事はできるけど、恋愛はできないもん!」
「できてんだろ!」
「そうだけど!」
< 14 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop