最後の恋
一応コンコンとノックを鳴らす。


返事がないのを確認してドアを開け部屋に足を踏み入れると、誰もいないはずのその部屋の中、窓際に彼が背中を向けて立っていた。


あまりにビックリして体が大きく揺れ、声が出そうになったのを寸前で抑えた。


まさかこんな時間にいるとは思わなかった。


陽奈だってまだ専務を見ていないと言っていたのに、彼はいつからここにいたんだろう。


「……おはようござい…ます。」


声を振り絞るように専務に声をかけ、半分固りかけていた足を前に出す。


仕事は仕事だから、週末落としたままにしていたスマホのように無視をするわけにはいかない。


背中しか見せていなかった彼がゆっくりと振り返る。


私を射抜くその目は怒っているようにも、哀しそうにも見えた。

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