最後の恋
離れていたから、2人がどんな言葉を交わしたかまでは分からない。


一ノ瀬君は今もまだ私に気づかず背中を向けたまま小さくなっていくタクシーを見送っている。


近くにいるはずの彼の背中が、今の私には果てしなく遠く感じた。


2人が一緒にいるところを目の当たりにしてズキズキと心が痛む。


そして、時折きゅ〜っと締め付けられる。


少し早いけど、待ち合わせのホテルに向かおう…


そう思い向きを変えようと足を動かした、その時…背中を向けていた彼が動いた。


幸い私がいた場所のすぐ横には、彼のマンションから50m程離れたところにあるバスの停留所があった。


咄嗟に顔を背け足を動かした私はバスを待つ人の振りをして誰もいないベンチに腰を下ろした。


恐る恐る顔を上げ視線だけを彼に向けると、こちらに気づいた様子はなかった。


胸を撫でおろし、久しぶりに見れた彼からそのまま暫く目が離せなかった。
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