最後の恋
「それと、ね……」


そう切り出した彼女に目を向けると、紫乃がソワソワと落ち着きをなくした子供のように…緊張している様子が見て取れた。


そして、その表情にはどこか照れを含んでいるようにも見えた。


彼女の様子から、もしかして…とこちらも緊張で身構える。


「こんな時に言うのもアレなんだけど、今日会ってもらったのはその話もあって…。私ね…実は………結婚が決まったの。」


相当、勇気が言ったのかそれを言うのにかなりの時間を要した紫乃。


そして言われた私自身も、その言葉と意味を理解するのに時間がかかった。


「…結婚…。そ、そう…だったの。おめで…とう…」


既にそこまで話が進んでいたことに驚きとショックを隠しきれなかった私の口からは、辿々しいお祝いの言葉しか出てこなかった。


覚悟してこの場に臨んだとは言え、心臓がギチギチと締め上げられて悲鳴をあげていた。
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