最後の恋
「…あはは…確かにあったね。そんな事が。でも、アレは私にとっては恥ずかしすぎる過去だから、出来れば一ノ瀬くんの記憶からも消してくれるとありがたい、かな。」

「うーん、松野さんにそう言われたらそうしてあげたい気もするけど…それは難しい、かも。」

「なんで?」

「何でって…あの噛み方が可愛かったのと、俺的にはツボ過ぎて忘れられなくなったから?」


ただ、あの失敗のことをそう言われただけなのに、可愛いとか、忘れられなくなったとか一ノ瀬君の口から言われると私自身の事を言われている錯覚に陥りそうになって胸が勝手に鼓動を打ち鳴らす。


こんな風に一ノ瀬君の何気ない言葉にドキドキしている事を、彼に悟られない様にするだけで必死だった。


「じゃあ、せめて私の前では忘れたふりだけでも…。」


「うん、じゃあフリだけね。実際には絶対に忘れないしずっと覚えてるけどね。」


私をドキドキさせるだけの威力を持っているとも知らずに、またそんな言葉を使う一ノ瀬君の方に思わず顔を向けると、いたずらっ子の様な笑顔を見せられて更に胸が高鳴った。
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