溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

もしかして、あれか。ベッドからここまで目覚まし時計を置いて……移動しながら起きてるとか?

「ぶふっ」

ゾンビみたいに床を這いながら移動してくる主任を想像して、つい吹き出してしまった。

やばい、これからは彼がすました顔で出勤してくる姿を見るたびに笑ってしまいそうだ。クスクスと笑いながら、顔を洗って簡単に化粧をする。

仕事のときよりは、だいぶ適当だ。昨日、主任にも言ったけど、化粧も洋服も私にとっては武装。

キッチリと化粧をして、肩まである髪を束ねると、なんとなく自分が強くなったような気がする。

だけど、今日はそんなことをする必要はない。だから、髪も下ろしたまま。その分、ドライヤーを借りて念入りにブローをする。

ピンクのニットとスキニージーンズを穿いて、朝ごはんの準備を始める。

昨日のうちに買い物をして、ちゃんとキッチンの使用許可も得ておいた。

しかし、一応一揃えの調理器具はあるけど、使った形跡がほとんどないな。この人、普段どんな食生活を送ってるんだろう。

よし、ご飯は炊けてるな。あとはみそ汁を作って、鮭を焼いて玉子焼きを作る。私は朝はガッツリ和食派だ。

「よし、できた」

我ながら手際がいい。自画自賛しながら寝室に入ると、さっきとまったく同じ体勢で主任は眠っていた。

「東吾、起きて。朝ご飯もできたし」

「……あと五分だけ」

モゾッと布団の中に潜る主任に、困り果ててしまう。本当に寝起き最悪だな。だけどもう、起きてもらわないと私も困る。

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