王子様はパートタイム使い魔


 図星だったのか、黒猫は黙って視線を逸らした。リディは黒猫の前にしゃがんで黒猫の額を指先でちょんと突く。

「どこのお貴族様だか知らないけど、これに懲りたら少しは人の気持ちを考えてみることね」

 黒猫はちらりとリディに視線を送り、ぼそりとつぶやいた。

「またスカートの中が丸見えだぞ。おまえも少しは品を学べ」
「いちいち見なきゃいいじゃないの!」

 床にぺたんと座り、あわててスカートを押さえたリディに、黒猫はしれっと言い放つ。

「目の前にあれば目に入ってしまうだろう。おまえこそ、オレの股間をしげしげと眺めていたではないか」
「あれは猫がオスかメスか確かめてたの! 人間の股間を見てたわけじゃないでしょ!」

 相手が人間だとわかってしまった途端恥ずかしくなったリディは、真っ赤になって反論した。そしてふと気づいた。

「でもわかったことがあるわ」
「なんだ」
「あなたに呪いをかけた魔女は、一応配慮はしてくれたようね」
「どういう配慮だ。呪ってるくせに」

 黒猫は心底不愉快そうに、鼻筋にしわを寄せて吐き捨てるように言う。

「だってあなたは人間に戻ったとき服を着ていたじゃない。裸だったら恥をかくから服ごと猫に変化しているのよ。すごい魔女ね」
「まぁ、すごい魔女には違いないだろうな」

 意外なことに黒猫は呪いをかけた魔女の力量をある程度知っているらしい。その上で怒りを買うようなことをしたのだとしたら、よほどの考えなしか、あるいは自分に手を挙げるものなどいないと確信していたか。
 おそらく後者だろう。貴族にはありがちな思考だ。

 どうやらこの呪いは魔女の怒りを買うと猫に、魔女の口づけで人間に戻るようだ。
 契約は有効なので、使い魔としておつかいを頼むなら人間の方が便利ではあるが、いかにも貴族然とした青年を使役するのも気が引ける。元々人間と使い魔契約はできないのだ。


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