王子様はパートタイム使い魔
ホッと胸をなで下ろすディルクを見て、ユーリウスもひとつ息を吐いた。そして思い出したようにクスリと笑った。
「あんな若い魔女は初めて見た」
「まぁ、ヒューゲルの魔女はベテランが多いですからね。グローサーヴァルトのどこかにあるという魔女学校には若い魔女がたくさんいるそうですよ」
「そうか。だったら新米魔女なんだな」
町の人々とのやりとりや仕事の説明などの一生懸命な様子を思い出して、ユーリウスはまたおかしくなってクスクス笑う。まじめなのは悪くないが、少し肩に力が入りすぎているように思えた。
くるくると猫の目のようにめまぐるしく変わる表情もおもしろい。ユーリウスを人間だとわかっても、身分が上だと知っても物怖じしないのも大した度胸だ。
ユーリウスの周りにいる女性は、身分に怯えて萎縮しているか、身分に惹かれて作り笑顔で機嫌取りに来るかどちらかだ。
そんな女たちの中から妃を選べと言われても気乗りしないのは当然ではないかと思う。そんな女たちなんて誰でも一緒だ。そう思って言った言葉が呪いをかけられるほどの怒りを買う意味がわからない。
思い出すと不愉快で、ユーリウスはむすっと黙り込んだ。表情が険しくなった主を幾分気遣わしげにディルクが声をかける。
「殿下、どうかなさいましたか?」
「いや、ちょっと不愉快なことを思い出しただけだ」
「そうですか」
ホッと息を吐いた後、ディルクはまたおずおずと口を開いた。
「あの、ずっと気になっていたんですが、その、首に巻かれた赤い布はいったい……」
「あっ……!」
ユーリウスはあわてて首の後ろに腕を回してスカーフをほどく。それをくるくる無造作に丸めて上着のポケットに突っ込んだ。不思議そうに見つめるディルクを睨んで、厳しく言い放つ。
「なんでもない」
「はぁ……」
納得はしていないようだが、ディルクはそれ以上追及することはなかった。
それから少しして、馬車はヒューゲルの王城にたどり着いた。
ユーリウスは、夕食の時間に遅れることもなかったせいか、日中行方をくらましていたことを咎められることもなく、いつもと変わりない夜を過ごして一日を終えた。