王子様はパートタイム使い魔


 ツヴァイが帰宅した後、リディは玄関に施錠して目を閉じた。深呼吸をして意識を集中する。そして家の周りに強力な結界を張った。これでもう、人も獣も家に近づくことはできない。
 独り立ちした魔女は、一人暮らしになることが多い。だから自衛のため結界魔法の習得が義務づけられている。無防備になる夜間、獣やよからぬことを考える男たちから身を守るためだ。
 だが、魔女たちは大概なんらかの攻撃魔法も習得しているので、ちょっかいを出して痛い目に遭うのがいやなのか、強引に手を出してくる男はほとんどいない。

 結界を確認して、リディはテーブルについて座った。先ほどまでツヴァイが座っていた場所を見つめてクスリと笑う。
 あきれるほど人の気持ちを考えなかった彼が、グレーテの気持ちを考えるようになった。それがなんだか少し嬉しくて思わず笑みが浮かぶ。
 猫の姿になって言葉が封じられたため、態度や表情で人の考えていることを推測しなければならなくなったからだろう。それを見越してグレーテは彼を猫に変えたのかもしれない。

 このまま人の気持ちをよくわかるようになってほしいと思う一方で、そうしたら彼は呪いが解けてここからいなくなってしまうと思うと少し寂しい。

「だって、ツヴァイは仕事ぶりも評判もいいし」

 それが寂しい理由だと言い聞かせるように声に出して言い訳をして、リディは席を立った。ティーカップを片付けて、夕飯の支度を始める。朝ツヴァイと一緒に食べた鶏肉団子のスープを暖めながら、隣のかまどで卵を焼く。調理をしながら、リディは今日一日の出来事を思い出していた。
 馬車の荷台に揺られてツヴァイと他愛のない話をしたこと。中身は人のはずなのに、ツヴァイは風に揺れる木の葉や木漏れ日に、度々猫のように反応するのがおもしろかった。いつもは勝手のわからないことを質問されることが多く、ヒマなときもツヴァイは眠っていて、あまり雑談をしたことはなかったので楽しかった。
 ふと、記憶の中のツヴァイが人の姿に変わっていて、リディは動揺して頭を振る。少しして次の記憶がよみがえってきた。
 魔女組合のソファでロッテと情報交換という名の世間話をした。途中で外出から帰ってきたツヴァイがひざに飛び乗る。ひざの上で丸くなって喉を鳴らすツヴァイがかわいくてずっと頭を撫でていた。
 またしても記憶の中のツヴァイが金髪青年に変わる。おまけに彼はリディの膝枕で寝そべっているのだ。
 先ほどよりもさらに動揺して、リディはみるみる顔が熱くなってきた。ドキドキと胸も早鐘を打ち始める。

「私ったら、なに考えてるの! 猫、猫! ツヴァイはかわいい黒猫なの!」

 その時、突然スープの入った鍋がプシューッと湯気を噴き出してフタをカタカタと鳴らし始めた。その音に驚いてリディは悲鳴を上げる。

「キャーッ!」

 あわてて火を消し、ホッと息をつく。それと同時に気持ちも落ち着いてきた。

「変な妄想してないで、ごはん、ごはん」

 気を取り直してリディは、焼いた卵とスープの載ったトレイを持って台所を出た。窓のそばを通るとき、ふと視線の端に何かが動いた。人影のようだった気がして窓の方に視線を向ける。顔を近づけて見たが、窓の外はすっかり日が暮れて真っ暗な森が広がるだけだ。木々の隙間から漏れている小さな明かりは近所の家の明かりだろう。人影どころか獣の姿も見えない。
 どっちにしろ強固な結界が家を囲んでいるので、人も獣も入っては来れない。
 リディはさして気にも止めず夕食の席に着いた。



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