泣き跡に一輪の花Ⅰ~Love or Friends~。




「な、奈々絵っ!?」




 廃ビルの入口に、そいつはいた。




「…………あづ」



 あづは俺が追いかけてきたのを見て、
ギョッとしたように開いた口を
塞げずにいた。


「ゲホッ、ゴホゴホッ!! ハァ、ハァ……」


 両膝に手のひらをつけて、
俺は荒々しい息を整えた。



「奈々絵?」「ハァ。……病人、走らせんなよ馬鹿」



 俺の暴言と、近づいてきたあづの声が
被った。

「……大丈夫、だから。……父親は、お前を嫌ってねぇから。だから、さ……会おうぜ」

「でっ、でも……」

「大丈夫だよ。な?」


「奈々絵……」


 ——グキ。




 刹那、何かが切れたような、あるいは壊れたような不可解な音が脳に響いた。




 その不協和音を聞いた同時に、俺の視界は徐々にボヤけて、立っていた足がガクガクとバランス感覚を失っていった。



 ——ダメだ。俺は死んでもあづを救おうって、穂稀先生に電話をかけたあの日、そう心に誓ったのに……。



「おいっ、奈々絵っ!!!」




 咄嗟に俺の体を支えたあづの声を聞くのを最後に、俺はまた三年前と同じく、気を失った。









< 210 / 284 >

この作品をシェア

pagetop