もう一度、あなたに恋していいですか

結局、全然寝れなかった。
鏡に映る自分の顔は見るに耐えられなかった。
目は泣き腫らして真っ赤で、明らかに泣いたあとだとわかる。
こんな姿、圭介さんに見られたくないな。
でもこれで会社を休むわけには行かないし…行こう。

ため息を1つつき、玄関の扉を開けて外に出るとタイミング悪く三枝さんと鉢合わせる。

「ああ、松岡さんおはようございます。偶然ですね」

今一番会いたくない人に、朝一番から鉢合わせ。
今日は最悪な一日になりそうだ。
彼のしらじらしい笑顔が腹ただしい。
私は彼の挨拶を無視して、部屋に鍵をかけてエレベーターへ向かう。

「今日はご機嫌ななめですか?察するに昨日、愛しの彼に会えないって断られたんでしょう」

何でわかるのよ。

そう言いたい気持ちを抑え、私は無言でエレベーターを待つ。

「目、腫れてますよ。昨日夜通し泣いたんでしょ」

あんたには関係ないでしょ。

「いつまで経っても、相手に奥さんがいる限り自分は2番目。松岡さんはそんな関係に耐えられるタイプじゃないと僕は思いますけどね」

あなたに何がわかるのよ。

「あー…無視ですか。そりゃあ大好きな彼との関係を否定する奴なんか鬱陶しいですよね。でも不倫なんてやめた方がいい。僕には…わかります」

エレベーターが開く。
私はすぐに乗り込み、扉を閉めるボタンを連打する。

閉まる扉の向こう側で彼が笑顔で手を振る。
あっけなく扉は閉まり、エレベーターは彼を置いて降りていく。

何なのあの人。
エレベーターに乗る気はなかったのかしら。
それを言うためだけに、私を待っていたの?
何でそこまでして私に不倫をやめさせようとするの?

マンションの入り口を出て見上げると、彼が手を振っている。

振りかえすわけないでしょっ。

私は彼を睨み付けてから、最寄り駅へと足を向けた。
< 14 / 145 >

この作品をシェア

pagetop