もう一度、あなたに恋していいですか
ああ、雨だ…

傘の持っていなかった私は、シャッターの閉まった酒屋さんの軒下へと避難する。

空も暗いし、しばらく止みそうにないな。

雨がたんだんと激しく音をたてて弾ける。
彼氏の浮気が発覚して、雨に降られて、今日は最悪の一日ね。
私は深くため息をつき、その場に座り込む。

もう彼のことなんて考えたくないのに、どうしても彼のことばかり考えてしまう。
しかもさっきの浮気現場の光景なんかじゃなくて、いままで楽しかった彼との思い出ばかりが頭を駆け巡る。

ああ、本当に彼とは終わったんだ。
私から告げたのに、後悔の念が頭を埋めつくす。

3年も一緒にいたのに、終わりはこんなにも一瞬なのね。



ーーーパシャパシャパシャ…

しばらく雨が降り続いたあと、誰かが溜まった雨水の中を駆け抜け、こちらへむかってくる足音が聞こえた。

私は膝に埋めていた顔を上げ、音のするほうへと目を向ける。
視界には一人の男性が目にはいる。
傘がないようで、彼も私と同じように雨宿りをしに酒屋の軒下へと足を踏み入れる。

「いきなり降ってきましたね」

彼は軒下へと来るなり、私に言葉を投げかける。

「そうですね」

青の七分丈のシャツに黒のパンツ、黒のスニーカーをはいた彼は、おそらく私と同い年くらいに思われる。
身長は170センチくらいで細身体型だ。

彼は濡れた黒色の髪をかきあげる。
その仕草と、シャツが濡れて肌にはりついているのを見てどきっとする。
見てはいけない気がして、私はすぐに目をそらす。
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