日常に、ほんの少しの恋を添えて
 翌日の朝。
 出勤して掃除を済ませた私は、秘書室のPCにて接待相手の企業の情報と睨めっこ中である。
『橋上工業 従業員数7825……』
 ふむふむ、と今夜の会食の相手である橋上工業のデータを頭に叩き込む。
 そこへ新見さんがやってきて、私の手元を覗き込んでくる。

「あ、橋上工業ね~。うちの会社との付き合いも長いのよ。社長同士も交流あるしね」
「今夜の会食はあちらの常務となんですが、新見さんご存知ですか?」

 常務か~、と言いながら新見さんが腕を組み、眉根を寄せる。

「多分うちの会社と、ってなると岩谷常務じゃないかと……。岩谷常務は普段は気さくな方なんだけど、お酒入るとちょっと面倒な人になっちゃうのよね……」
「面倒って、どういった具合に……」

 すると新見さんの眉間の皺がさらに深くなる。

「絡むのよ……女の子が同席してると尚のことね。でも専務がいらっしゃるから、大丈夫よ。私も何度か専務には助けてもらったもの」

 絡み酒か……あんまり慣れてないからどう対応したらいいのか……
でも専務が一緒なんだし、きっと大丈夫だよね……と思うことにしよう。

「教えてくださってありがとうございます。勉強のつもりで行ってきますね」

 新見さんに心配かけてもいけないなと思い、こう言いながら笑って見せると彼女はちょっと心配そうな表情のまま「頑張って!」とエールをくれた。

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