チャットで人生変わった話


「すげえデブ」


 とある休日の昼下がり。秋も深まり道ゆく人々の歩調がやや忙しなくなる頃、唐突な暴言が自分に向けられたものだと気づくのに時間を要した。星野は振り返った。にやにやと笑う男が二人。

何も考えられないまま、足早に曲がる予定の無い道を歩いた。

人通りの少ない渋谷の細い道。ふと我に帰り立ち止まると、ふつふつと焦燥感が湧き上がり、暴れ出す。

数ヶ月放置した髪の根元のプリン。だらしない身体。抜け切って黄ばんだカラーリング。ガタガタの爪。下半身太りを隠すために、体のラインが出ないワンピース。しかも、人と同じは嫌だという臆病な自尊心のために、奇抜なテキスタイル。

化粧も男受けどころか、女友達にだって諌められるような濃いアイラインとノーズシャドー。口周りの産毛も暫く剃毛していなかったので、髭のように見える。

星野は決して過度な肥満では無かったが、身長161センチに対して60キロ代目前と、渋谷の細すぎる女子たちと並べば服装の奇抜さと相まって、悪い意味での存在感が際立った。

生活リズムが乱れていて、かつ仕事に生きている(つもりの)若い女性は、しばしば自分を客観視出来ていないことがある。もちろん例に当てはまらない者もいるが、仕事に打ち込みすぎて、自分自信を削りすぎていることにさえ気づいていないからだ。

そして恐ろしいことに星野も例外ではなく、なんとこの一件があるまではどちらかというと自分のことを「イケてる」と思い込んでいたと言うではないか。


ふと、ショーウィンドウに映る自分が目に留まる。


こんなの、私じゃないと言わんばかりに、星野は宛てもなく駆け出した。
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