エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「桜田さん?」

 私と母、どちらを呼ばれたのかは判断がつかなかったが、声のした方を見ると、背の高い男性が人のいい笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってきた。

「あっ!」

 その顔に思わず叫んでしまう。その声が思ったより大きくて慌てて口に手を押えた。一度しか会ったことがないからすぐに思い出せなかったけれど、彼はラウンジで一度だけ会ったことがあるB.C. Building Inc.の社長の紀元京一さんだ。母が不思議そうに私を見る。

「美緒、京一さんとお知り合いなの?」

「美緒さんは、うちの会社の受付業務を担当してくれているんですよ」

 母の顔に驚きが広がる。ちゃんと職場のことを話したはずなのに。そんな思いを振り払った。母は紀元さんに頭を下げる。

「正一さんの息子さんっていうから、お会いするのを楽しみにしていたんですよ。今日はよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ」

 交わされる会話が耳をすり抜け、私は状況についていけなかった。紀元さんは相変わらずにこにこと笑ったままだ。

 彼は、本気で私とお見合いを? だって、あの秘書さん、藤野さんは? 不躾に紀元さんの方に視線を送ると、目が合った彼はにこっと笑ってくれた。

 その笑顔は、どこか安心させるかのようなもので、私は口が挟めなくなる。
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