エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「とりあえず座りなよ」

 先に座ってカップを手に持とうとしている倉木さんと目が合う。私はおずおずと倉木さんの正面のソファに腰を下ろした。

「そんな重く受け止めなくても。こういうときは、ありがとうございます、でいいんだよ。こっちとしては、素直にご馳走されたものを楽しんでくれたら、それでいいんだから」

 私の思いつめた顔から、なにを考えていたのかバレバレだったらしい。奢られ慣れていないのも考えものだ。私は自分のカップに視線を落とした。ミルクにラテアートが施され、可愛い葉っぱが描かれている。

「ありがとうございます、いただきます」

「はい、どうぞ」

 生真面目に返事をしてくれた倉木さんに、少し気持ちが軽くなる。陶器のカップは重たくて、それなりの量が入っていた。

 なのでお行儀悪くも両手で支えながら、軽くカップに口づける。ミルクのふわふわした泡とコーヒーの味が、苦すぎずちょうどいい。

「美味しい、です」

「なら、よかった。ここのコーヒー飲んだことないの勿体ないよ」

「倉木さんは、いつもこちらで?」

「大体。朝の方が頭も働くし、効率いいからさ」

 そこで会話が途切れる。机の横に置かれている倉木さんの資料をちらっと見ると『プライマリーバランスにおける日本の財政再建案と諸外国に見るモデルケースについて』と書かれていた。

 申し訳ないが、振る話題にしては難しすぎる。おかげで、私はどうすればいいのか、また悩み始めた。
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