エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「お付き合いいただけるなら、ぜひ!」

 この際、ビルの中だけだろうが、フロア内だけだろうが、贅沢は言わない。本気でお互い付き合うわけではないなら、むしろメリハリができて好都合だ。

「ちなみに、付き合うってどこまで?」

「どこまでって。ビルの中だけじゃないんですか?」

 今しがた言われた言葉を反復するように尋ね返すと、倉木さんは顔をしかめた。

「そういうことだけじゃなくてさ、付き合うんだろ? キスはありなの? セックスは?」

 言われた言葉に私は硬直する。とんでもない単語が倉木さんの口から飛び出したような……。脳での処理を終えて、意味を理解したと同時に私はよろけながら手をぶんぶんと横に振った。

「いや、さすがに、それはっ。結構です、はい」

「桜田さん、よくそんなので遊びで付き合ってくれ、なんて言ったよね」

 呆れたような倉木さんの表情に痛くなる心臓を必死で抑える。赤くなる頬を押さえて、再び頭を下げた。

「すみません。あの、勝手なことばかり言って。それは他の方としてください、ごめんなさい」

 それにはなにも答えず、倉木さんはため息をついた。お見合いは来月末の土曜日の予定だ。だから、それまででいい。

 少しだけ男に人に慣れることができれば。そんな都合のいい相手として倉木さんを選んでしまった。半ば玉砕覚悟で申し入れた交際を、まさか受け入れてもらえるなんて。

 こうして、私と倉木さんの本気でも遊びでもない、社内限定恋愛が始まったのだ。
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