おはようからおやすみまで蕩けさせて
聞かれてもいない理由を話し、デスクの引き出しにポーチを片付ける。


「へぇー。いい心掛けだね」


天宮さんは感心した様に囁く。
それにニコッと笑い返し、パソコンに入力したスケジュールを確認した。


午前中に二社、午後からは三社のメーカーが来る予定になっている。



「ふぅ…」


思わず軽く息を吐く。
バイヤーを始めて七年になる自分でも、商談はやっぱり気が重い。


自分の言葉一つで世の中に出回る商品が決まる。
仕入れる物によっては爆発的に売れることもあれば、一回だけの入荷でも在庫が多く残る場合もある。

そういう時は責任の重たさを痛感する。
自分の見る目がなかった…と落ち込みも酷いけど、それ以上にやり甲斐がある仕事だ。

何よりも新しい商品を一番最初に見れるのは役得。
それが開発段階で、どんどん進化していくのを見届けるのは面白い。



「気の重い商談でもあるのか?」


私の吐息を耳にしたリーダーが問いかけてくる。
この部署に配属されてからずっと、私の上司を務めている天宮さんを振り返った。


「そういう訳じゃないんですけど、商談前はやっぱり緊張をするので」


一からバイヤーという仕事を教えてくれた彼。
今は飲み仲間になったけれど、配属されたばかりの頃は怖い存在だと思っていた。


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