【完】君しか見えない
耳にイヤホンを挿し、スマホをいじりながらこちらへ歩いてくる楓くん。
動くこともできず立ち尽くしていると、視線をスマホに落としたまま、楓くんが私の横を通り過ぎて行く。
……やっぱり、気づいてもらえなかったか。
残念な感情を抱きうつむいた、その時だった。
「……十羽?」
突然腕を掴まれた。
私の名前を呼ぶ、あの声が、一瞬にして私の心を埋め尽くした。
思わず泣きそうになる。
目の奥がジリジリ痛んで、視界がぼやけて。
でもそれをぐっと抑えて、振り返った。
そこには、楓くんがいた。
私の腕を掴んで、驚いたように少し目を見開いた楓くんが。