【完】君しか見えない


「……十羽」



その名を呼べばガクンと膝が折れ、ベッドの横に膝をつく。



そして点滴が刺さった白い手を握りしめた。



力いっぱい握ったら壊れてしまいそうなほど、脆く思える。



だけど再会してからずっと冷たいと感じていたその手には、今はたしかな温もりが宿っていた。



それでやっと、十羽が生きていると強く実感できた。



「……ごめん、俺のせいで。
痛かったよな」



そっと頬を撫でてやっても、嬉しそうに目を細めてはにかんでくれることはない。

< 318 / 360 >

この作品をシェア

pagetop