円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~



「エリノアさん、暑いだろう。その暑苦しい服、脱いじまいなよ」


すぐ横で作業をしていた男が、エリノアに向かって言った。

こんなふうに、無礼な口の利き方をするのは、下男のジョンだ。

茶色いくせっけの髪に、この地方独特のずんぐりとして骨の太い強い体を持っていた。

真面目に働くし、体力的にも優れている。


本当によく働いてくれるが、物を覚えることが得意ではない。

エリノアのような、雇い主という立場の人間に、そういう口の利き方をするんじゃないと、彼に一生懸命に教え込んでも、次の日にはみんな忘れてしまう。

だから苦労して教え込んだことも、2日と続いたためしがない。

「エリノア様にそんな口の利き方をするんじゃない」
と、言ったそばから、年配の下男にたしなめられる。

ジョンにとっては、身分などどうでもよかった。

ごちゃごちゃ言わずに戦ってみろと言えばいい。

そうすれば、あっという間に優先すべき序列が決まっていく。
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