円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~


彼は高い身分に生まれて、
何でも思い通りに生きて来て、
何でも手に入れて来た。

それは、力だろうと、お金だろうと、
女性だろうと同じだった。

女性の扱いならよくわかっている。

こっちが欲しいと思わなくても、
いくらでも近寄ってくる。


女性の扱いなら、どうってことない。

どこをどうすればいいのか、
彼ほど経験を積めば、
たいていのことは対処できる。


でも、それは、一人前の女性に対してだ。


力づくで、自由を奪われてる
エリノアの目に、
ようやく不安の色が見えてきた。


「怖いのは、分かったか?
こんな真似は、もうしないと誓うかい?」

彼は、優しく言うと、
ゆっくりと彼女に近づいてキスをした。

ほんの触れるような
優しいキスだったのに。

甘美でどうしようもないくらい、
引き付けられる唇だった。

これまでどんな妖艶な女とのキスも、
情熱的な美しい人とのキスも
全部忘れてしまった。

もう一度味わいたい。
彼の方はそう思ってるのに。


手を離してやると、
エリノアが彼を睨みつけて行った。

「ウィルなんて大っ嫌い!!」

こんな子供じみたセリフが
彼を打ちのめした。

何てことだ。

こっちは、そう言われないために、
必死で欲望を抑え込んだのに。


彼が、優しく声をかけても、
これはお仕置きだと、語気を荒げて
言っても、エリノアはただ
メソメソ泣くばかりで、
手が付けられなかった。

もう、手に負えない。


彼があきらめて、
ベッドから降りてドアのかぎを開けると、アリスだけでなく、
ルーカスとメアリーまで
廊下で待っていた。

彼は、ばつが悪そうに
「どうぞ」と中に3人を招き入れた。



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