円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~

トーマスは、
自分の楽しみを優先する方で、
社交のルールを、無用なルールの塊だとみなしていた。

だから、周囲の冷ややかな視線を
無視して、エリノアと踊り続けた。

同じ人と4曲も踊ってはいけない。
社交場のルールがある。
そんなことしたら、マナー違反になる。

彼は、周りに嫌な顔されても、まったく気にしなかった。



一方、ウィリアムの古くからの
友人のエリオットは、
隣にいるリディアの、
甲高い声にうんざりしていた。

その横で、トーマスと踊る
彼女のことを見て、
ますます不機嫌になる友人のことを、
気にしていた。


エリノアが、4曲目の踊りが
終えたところで、エリオットは、
すっと二人のもとへ歩いて行った。

彼は、エリノアに近づき、
それとなく社交場の非礼を伝えた。

何度かエリノアに話しかけたけれど、
二人とも話に夢中になって、
エリオットの話を全く聞き入れなかった。

トーマスにいたっては、
ルールなんて何だっていうんだと言って、
場の雰囲気を悪くした。


ウィリアムは、
あれほど釘を刺したにもかかわらず、
懲りずにあのアメリカ人と、
楽しそうに踊る従妹を見ていた。

そして、二人が、目の前を通り過ぎていくのを見ていた。

エリオットは、自らの評判を落とす
ような行為は、慎むようにと、
エリノアに不機嫌な態度で伝えた。


けれど、今の彼女には、
目の前の楽しみしか見えて
いないようだった。

「もいいよ、エリオット。
そんなに踊りたいなら、
好きにするがいい」

ウィリアムは、そう言うと
彼女を目で追うことを止めてしまった。

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