キス税を払う?それともキスする?
「失態を犯してしまった…。」

 やはり奥村さんはキス待ちなどしていなかったのだ。

 嬉しい思いと失敗した…という思いが交錯する。

 しかし…

 そっと自分のくちびるに手を当てて、奥村に触れた柔らかい感触を思い出すと顔を熱くさせた。

「謝罪した方がいいのか…。だが…なんと言えば…。」

 南田は頭を抱えうなだれた。


 マンションに帰ると腹いせにスマホをソファに投げ捨てた。

「何がチャンスだ!
 僕としたことが不覚だった。」

 別にあの情報を信じていたわけじゃない。ただみつめられ、その瞳に吸い寄せられるように近づいてしまっただけ…。

 近づくどころか…。
 はぁ。何をやってるんだ僕は…。

 いつもは奥村さんを見つけて、密かに観察するだけで良かったんだ。
 近づき過ぎてはきっとボロが出てしまう。

 だが、もう手遅れだ。
 早急に対策が求められていた。


 南田は考えあぐね、そのまま朝を迎えてしまった。
 寝不足だが仕方ない。
 出社するより他なかった。

 思考が停止しそうになりつつ歩いていると気づけば前に奥村がいた。

 重ね重ねの失態だ。

 まだ解決策を見出せずにいる南田は体を固くした。

 しかしすれ違っても向こうも何も言って来なかった。

 安堵する反面、昨日のことは向こうにしてみれば、なんでもないことだったのかもしれない…。
 そんな疑念が生じる。

 どちらにしても話し合いが必要不可欠だ。
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