キス税を払う?それともキスする?
「ところで契約についてだが…。」

 とにかく本題を話さなければいけない。

 しかしゴホゴホ…ゴホッと奥村は咳き込んだ。
 やはり体調が芳しくないのか…と心配になり、そっとお茶を差し出す。

「契約はしません。
 何度言ったら分かってもらえますか?」

 南田はため息混じりに言葉を投げた。

「キス税は毎日しないと意味がない。」

「それくらい知っています。」

 免疫力を上げるための政策。
 毎日でないと意味がない。

 それを盾に契約締結に持ち込むつもりだった。
 それなのに上手く事は運ばない。

「理解しているのなら、どうして断るのかが理解不能だ。
 1回だけでは免除される額は微々たるものだぞ。」

 税金を納めるのを躊躇している者への常套句…そうネットで謳われていたが、やはりネットの情報を鵜呑みにしてはいけないらしい。


 その時、急に外が騒がしくなって会話が中断された。

「キス税、はんたーい!」

「そうだ!反対だー!!」

「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので…。」

「うるさい!キス税を払うのなんてまっぴらなんだよ!」

 ぎゃーぎゃー騒がしい大声は店員に連れていかれたのか、しばらくして静かになった。


「うらやましい…。」

「騒音がか?」

 フフッと力なく笑う奥村は首を振った。

「私も反対デモに参加したいくらいなんです。
 なのに自分の意見も言えないでいる…。
 あの人たちはすごいです。」

「なるほど。
 非常に面白く、興味深い意見だ。」

 そこまでこの制度に嫌気が差しているのか。
 そこは僕と同意見だ。
 反対デモに参加したいとは思わないが…。

「僕もプライバシーの侵害だと日々思っていた。」

「え?じゃ今までは…?」

「無論、税金を払っていた。
 プライバシーが保護されるなら安価だ。」

「でも…じゃ私とは?」

「君とは…。」

 南田は言い淀む。

 君とならしてもいいと言うべきではないだろう。

「契約関係だ。
 プライバシーとは無縁だろ。」

 契約ということにした方がいい。
 僕も彼女も。

 契約…僅かに胸の痛みを覚えるが奥村さんとの時間を作れるのなら構わない。

 しかし奥村の考えは違ったようだ。
 冷たく言い放たれてしまう。

「私は契約しません。
 他の方をあたって下さい。
 今日はご馳走様でした。」
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