キス税を払う?それともキスする?
 目を覚ますと白い天井が見えた。

 記憶を辿るとたぶん倒れたんだろうと理解できた。

 ここは医務室かな。どのくらい眠ったんだろう。

 ベッドの脇に人影があることに気づいて目をやると、その人物に驚く。

 南田だった。

「やっと覚醒したか。」

 どうしてこの人は普通に「起きたのか?」って言えないんだろう。

「今、何時ですか?」

「六時だが?」

「…え?」

「六時だ。」

 私の意識が途切れたのって午前中じゃなかった?そんなに…。

 グーッ。

 お腹が思い出したように盛大な音を出した。

 な、なんでこんな時に!

 顔から耳までもが赤くなるのを感じてうつむくと、フッと笑う声が聞こえた。

「え?」

 顔をあげても南田の顔はいつも通りの無表情だ。

 でも…今、笑った?

 華、以外にここにいるのは南田だけだ。笑ったのが華じゃなければ南田しかいない。

「食物を摂取しに行こう。」

 な…。どうしてこうも普通に話せないのか。

 なんだか無性におかしくなって笑えてしまう。

「何がそんなにおかしいんだ。」

 ほら。普通に話せるくせに。

「なんでもありません。ご馳走して下さいね。」

「構わない。昨日もそのつもりだった。」

 え…。だから昨日あんな時間に…。でも定時くらいに帰ってるのに、どこで何をしてから職場に戻ったんだろう。

 いろんな事がおかしくて華は声を出して笑う。

 その姿に南田は怪訝そうな声を出した。相変わらずの無表情のままで。

「何をそんなに…。君のお腹の方がよっぽどに滑稽だ。」

 フッとまた息が漏れたのが聞こえて、この人ってやっぱりいい人なのかもと思った。

 打ち消していた「いい人かも」の思いをもう一度再確認した気がした。
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