キス税を払う?それともキスする?
 職場につくと昨日の残っていた仕事に着手する。

 南田のおかげでほとんど終わっているようなそれを苦々しい思いで取り掛かった。

 どうにか期日までに提出できた仕事にホッと息をつくと、張り詰めていた糸が切れてしまったのかもしれない。

 ふらっとして周りが白くなっていく感覚だけ覚えていて、あとは遠くで何故か

「奥村華!」

と名前を呼ぶ南田の声が聞こえた気がした。


 夢の中に南田が出てきた。

 意識が途切れる間際に南田の声を聞いた気がしたせいだろう。
 夢の中の南田も執拗にキスをしようとしてくる。

「…や。ヤダ…南田さん…やだって。」

 夢の中ではそんなこと言ったってどうにもならない。
 夢の中で懸命にもがいているのが分かる。

 逃げなきゃこんな人からもこんな政策からも。

 足が空回りして逃げれない。夢なのにどうして…。

 すると温かい声が聞こえた。

「大丈夫だ。心配しないで。大丈夫だから。」

 その声に安心すると夢の中の南田は消えた。
 それなのにその温かい声は南田の声のような気がした。
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