キス税を払う?それともキスする?
 リビングに入るとソファに座る頭が見える。

 迷いなくその背後まで進むと手を回して顔をこちらに向けさせた。

「え?」と驚いた顔に覆い被さるように顔を近づける。

 ゆっくりと重ねると触れたのか分からないほど微かに触れさせて離した。

 壁の機械から「認証しました」との音が聞こえた。

 すぐにキッチンの方へ立ち去ると奥村に
「後で指紋認証しておいてくれ」
 と声をかけた。

 本当はもっと…。だが仕方がない。仕方がないんだ。

 自分の気持ちを吐露するように南田は口を開いた。

「せっかく招き入れたのに今にも凝固してしまいそうな客人をもてなすのも心苦しい。」

 飲み物が入ったグラスを奥村の前に置くと自分もソファにかけた。

 そしてテーブルにポケットから…スマホを出して置いた。

 奥村が目を丸くして南田を見る。

「え?…持ってない…って。」

「あぁ。君を口先で丸め込むのは容易いな。
 連絡先を教えていたら理由をつけてここには来ないだろう?」

 どうしても、ここに来て欲しかった。
 しかしそれは…。

 急に奥村が立ち上がった。
 何かに憤慨しているようだ。

「もう契約したこともちゃんと…実行されましたし、帰ります。」

 奥村は南田を見返すこともなく玄関に向かう

「待ちたまえ。認証…していけよ。」

 奥村さんはここに来ることを望んでいなかったのだ。
 律儀な彼女はただ契約を遂行するためだけに来た。

 そんな現実を突きつけられた南田は奥村を強く引き留められなくなってしまった。

 全ては自分の押し付けだった。
 そんなことを今さらながらに思い知らされた。
< 129 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop