キス税を払う?それともキスする?

第20話 英断

 ずいぶん遅くなってしまったが、なんとか目処が立ちそうなところで帰ることになった。

 部内はキス税の認証機械に関わる人が大半だった。
 そのためこの後どうなるのか分からない今の状況で残業する人などいなかった。

 帰り支度をしながら口惜しそうに南田が言葉を発した。

「君にここまでの残業をさせるなど信条に反する。」

 さすがに途中で帰ってもらうべきだったか…。

「南田さんもここまで遅いのは珍しいですよね。」

「いや。僕は構わない。」

 奥村さんのためなら僕は構わないんだ。


 会社のビルを出る手前で南田が口を開いた。

「今日はもう遅い。
 また日を改めて契約について話がしたい。」

 今日にでも話してしまいたかったが…やはり別の機会にすべきだろう。

 ビルを出ると名残惜しい気持ちを見ないようにして「じゃ」との言葉を発すると、二人は別々に帰った。


 少し歩を進めてから、ふと気づく。

 そうだった。
 女性をこんな時間に一人帰らせるとは、僕としたことが…。
 送るぐらいは構わないはずだ。

 早足で来た道を戻り、奥村のアパートへの道を急ぐ。
 するとキス税の認証機械の近くにいる奥村が目に入った。

 その姿はずっと前、契約なんてものを持ちかける前に会社の認証機械を見てため息をついていた奥村と重なる。

 よもやキス待ちというわけではあるまい。

 しかし認証機械前で立つ奥村はどこか儚げで、今すぐにでも捕まえておかなければ消えてしまいそうな思いにさせた。

 捕まえなければ!

 その思いから気づけば奥村を捕まえるような形で覆い被さって壁に手をついていた。
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