キス税を払う?それともキスする?
「なんなの?なんなの?あり得ない!」

 ひとりイライラしながらアパートに帰る。

 その道すがら色々なところでキスをする人がいた。

 中には抱き合いながらする人も。

 普段はそんなこと気にも止めない…ように努力しているのに、さっきの今だ。
 イライラが倍増する。

「だいたい、あの機械…。」

 キス税が施行されると、そのための設備や制度が整えられた。
 それが南田が押していた機械だ。

 どこでも飲み物が買える自販機のように、キスしたことを政府にすぐ報告できるようにする為に至る所に機械が設置された。

 その前でキスをして指紋認証をすると個人が特定される。
 それが政府に送られて税金が免除されるシステムだ。

「いつでもどこでも人前でも!腐ってる…。こんな制度。」

 自然に早足になると逃げるようにアパートに帰った。

 玄関に入って一人になるとホッと息をつく。そして思わずつぶやいた。

「どうして南田さん…。」

 南田の名をつぶやくと、ついさっき華の前にあった瞳を思い出してしまって、崩れ落ちるように座り込んだ。

 南田のかけたままの眼鏡が頬に当たったことまで嫌でも思い出された。

 しかもその後…。

 別に経験がないわけじゃない。キスの一つや二つ…。
 決していい思い出ではないけれど。

 それにしたって…。
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