キス税を払う?それともキスする?
 黙ってしまった華の前にコトリと音を立てて何かが置かれた。

 …鍵?

 顔を上げると南田と目が合った。

「僕のマンションの鍵だ。毎度の外食を杞憂するなら、マンションに来臨してくれて構わない。」

 らいりん…重要なところが全く分からない…。

 でも…合鍵ってこと…だよね?

「それは…さすがに…。」

 私たちはただの契約関係。恋人っていうわけでもない。それなのにそんなに図々しいことをしていいのか。

それにそこまで深入りしたら、それこそ抜け出せない気がする。

 既に南田に振り回されている自覚はあるし、度々に痛くなる胸。
 抜け出せないほどにならないように気をつけないと…。

「君の捕食は予定していない。杞憂は不要だ。」

 そう言って鍵を自分のポケットにしまいながら続けて口を開いた。
 その続きの声には動揺が感じられた。

「スペアは家だ。失念していた。これを渡したら僕の帰宅が困難になる。」

「…プッ。」

「何がおかしい。」

「だって…。」

 ダメ。やっぱりこの人、可愛い。

「分かりました。今度おうちにお邪魔させてくださいね。」

 ニコッと笑った華の頭が引き寄せられた。

 一瞬のことにされるがままの華にくちびるが重ねられる。

 そして頬に眼鏡が当たった。

 ピッ…ピー。「認証しました」

 口に手を当てて動揺を隠そうとする華は顔が赤くなるのを感じた。

「な…。どうして。」

 1日に何度も認証しても意味がないことを南田が知らないわけない。

 いや。知らないどころか、そのことを前に華に話してきている。

「緊張をほぐすためだ。」

「ほぐれない!」

 この人の考えが全く理解できない。

「耐性をつけたら緊張しないだろ?」

 既に食事は終わっていた二人。南田は帰り支度をし始めていた。

 たいせい…。ブツブツ言う華に「慣れろってことだ」と言い残して先に行ってしまった。

 な…。やっぱり普通に話せるんじゃない。そもそも…慣れるなんて無理!

 華は顔を手で覆って椅子から立ち上がれずにいた。
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