キス税を払う?それともキスする?
 店の外に出ると寒そうにしている南田が待っていた。

 離れたところから見ている分には目の保養って感じなんだけどなぁ。

 誰かを待って立つその姿は寒さに耐え、それを表情に出さない感じが素敵に見える。

 でも実際はただの無表情男で変わり者。

「おい。凍死させるつもりか。」

 全くもって会話というものが成り立たないし。

「1日に1回だけというのも取り決めにしてください。」

「緊張しないようにというのを考慮した当然の結果だ。」

 悪びれる様子のない南田にどう説明すればいいのか分からない。

 そもそも恋人でもなんでもないのに毎日キスをするという契約自体が、常軌を逸脱している。

 …はぁ。思考回路が南田さんになってきちゃう。

 南田は「行こう」と小さく言うと先を歩く。どこに行くんだろうと思いながらもついていく。

 でもさすがに夜も遅いし…今日はもう帰りたい。

「あの…どこへ向かってるんですか?」

 華の質問に振り返った南田は当然のことを言うような口ぶりで話す。

「僕のマンションだが?」

「! 行きません!行くなんて言ってません。」

 華の抗議に立ち止まると腕組みをして見下ろされた。

 う…無表情の威圧感…。

「明日は土曜だ。どのように対顔するつもりだ?」

 土曜!

 華は南田に振り回されっぱなしで曜日などすっかり忘れていた。

 南田は無表情を崩さずに続ける。

「いつかお邪魔させてください。と言っていた。それなら今からが、うってつけだ。
 そのまますぐに明日の認証ができる。」

 そのまますぐに明日…。

 それってお泊まりってこと!?

「無理です。無理無理!お泊まりなんてそんなこと…。」

「君は杞憂が過ぎる。捕食する予定はないと言ったはずだ。」

「今から行くのがもっとも合理的で迅速な対応だ。」

 と言い張る南田を押し切って華は自分のアパートに帰っていた。

 南田が言っていた「ほしょく」が気になって何気なくネットで調べる。

 画面に現れた漢字と意味に愕然としてスマホに突っ伏した。

 ほしょく【捕食】《名・ス他》つかまえて食べること。

 た、食べるって…。

 やっぱり南田さんの思考回路は理解できない!!
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