キス税を払う?それともキスする?
 するとスマホを握っていた手が不意に離された。

「好きにしたらいい。」

 手を離し背を向けた南田は別の部屋へ行ってしまった。

「なんで…そうなっちゃうのかな…。」

 華は呆然としたままスマホを握りしめた。
 
 しばらくして戻ってきた南田は普通だった。
 普通…というか無表情のため、表情では読み取れないが、声のトーンを聞く限りは普通だった。

「映画でも視聴するか?」

 手にはいくつかDVDを持っていた。

「それよりもしたいことがあるんです。」

 そう言い出した華の提案で、キス病の抗体をチェックする機械を南田はリビングへ持って来た。

「やっぱりこの機械に関わっている南田さんは持っていらっしゃると思ったんです。」

「調べてどうするんだ。」

 自分は礼儀として調べたとか言ってたくせに…。

 いくらなんでもやっぱり南田さんにうつす可能性があるなら気がひける…というか断るいい理由!

 キス病を調べる機械の使い方は本当に簡単だった。
 小さい針で自分の血を出して、その血を機械に入れる。そうして数分待つと結果が出た。

 確かにこれならみんな検査しそうだ。

 数分後、ピッと鳴った機械の画面には「陰性」の文字。
 華にもキス病の抗体がないということになる。

 華は良かったと安堵した。しかし南田は少しも良くなさそうだ。

「良くないだろう?僕はまだしも君が自分を守れるとは思えない。」

 心配してくれてるのかな…。でも言葉に棘があるような気がするのは気のせい?

「君は容易いから気をつけた方がいい。」

 容易いって…。

 また言われた「容易い」の言葉に眉がピクッと動いてしまう。

「現に僕にこうして契約を迫られても断れずにいる。」

 そっちがあの手この手で契約せざるを得ない状況にしたくせに。

「だったら契約を破棄したらいいと思います。
 南田さんだって別に税金を払うことに抵抗はないんですよね?」

「なにを今さら…。無能な心証を与えるのは許容できないと告げたはずだ。
 それとともに人命救助という重大でかつ明白な責務がある。」

「もう命は大丈夫です。ありがとうございました!」

 投げやり気味に言い放った言葉も南田には響かなかったようだ。
 ため息のあとに呆れ声で言われた。

「君は理解していないようだ。君には抗体がない。
 相手が僕のような抗体がない者でなければ重篤化する危険があるのだ。つまり…。」

 陰性の可能性を考えていなかった華は南田の言いたいことが分かるとガックリと肩を落とした。
 そこへ南田の言葉が追い打ちをかける。

「僕たちは契約者として理にかなっていたことを示している。
 君も素直に僕を所望するといい。」

 検査結果は確かにその通りのことを表していた。

 日本人の10%…。何もここに二人もいなくてもいいのに…。

 キス病を検査する機械を見て恨めしく思った。
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