キス税を払う?それともキスする?
 次の日、仕事に行くのが憂鬱だった。

 南田は直属ではないものの職場の先輩。

 短大卒で今年入社の華に対して、南田は確か大卒の2年目。
 23歳か24歳ということになる。

 そもそも南田に年齢などあるのだろうか。

 そう思えてしまうほどに人間味が足りなかった。

 でも…。昨日は割と普通に話してたかも?

 普通…じゃないよね。行動はぶっ飛んでた。
 セクハラで訴えれるんじゃないか…。無理かな。
 キス税、最強説は揺るがない気がする。

 考えながら歩いていると人の気配を感じて前を見た。

 うわっ。なんで南田さん…。

 考えることに一生懸命になり過ぎて、前から南田が来ることに気づいた時はすぐ近くだった。
 逃げるのには無理があった。

 何か言われる…!

 体を固くした華の横を南田は普通に何事もなかったように通り過ぎた。

 え…何…それ。


「あぁそうでしょうとも。」

 華は誰も残っていないオフィスで愚痴をこぼす。

 華は南田のせいで仕事中も集中できずに失敗ばかりだった。
 そのため残業する羽目になってしまっていた。

「そうでしょうとも。ただからかっただけ。」

 南田の変人ぶりは有名だったものの、南田の有能ぶりも有名だった。

 そして残念なことに、残念というか、もったいないことに見た目は抜群に良かったのだ。

 だから実際には南田は女の子に不自由していないのかもしれない。

 そしてキス税が嫌なんてつぶやいた自分をからかったんだ。
 そう結論づけて納得できた。


 よく給湯室でおしゃべりしている女の子が
「南田さんが普通の性格だったらなぁ。」
と残念がる声を上げることは珍しくなかった。

 スラッとした平均身長を少し上を行くくらいの背。
 それよりも高く見えるのは脚が長いせいだろうか。
 顔が小さいせいかもしれない。

 そして笑ったら無くなってしまいそうな切れ長の目。


 ただ、笑ったところを見た人は幸せになれるという都市伝説があるほどに笑顔を見た人は誰もいない。
 笑顔どころか感情の起伏というものを感じない。

 そんな風だから色々な意味で噂の人なのだ。

 そんな南田さんと…。はーぁ。

 華は何度目になるか分からないため息をついてうなだれた。
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