キス税を払う?それともキスする?
 騒動は日に日に落ち着きを見せた。

 南田が部長に呼び出されたのは、メールのひどい内容が本当のことなのかの確認だったらしい。
 嫌がらせだと分かると特にお咎めはなかったようだった。

 南田はあの後は何事も無かったように仕事をしていたし、華は前よりも詳しくなった知識で順調に仕事をこなしていた。

 ただ二人の間柄は騒動があった前よりももっと前の何も無かった頃に戻ってしまっていた。

 テレビでは未だにキス税を賛成する人と反対する人が議論する番組もあったが、
 あまりにも賛成派が増えたせいで政治家さえも反対の声を上げることに躊躇するようにまでなっていた。

 下手に反対すれば今後の政治生命に関わるとの考えが見え隠れしていた。

 華はそんな政治家にもうんざりして、最近はキス税のことがニュースになっても、すぐに番組を変えるほどに期待しなくなっていた。

 そして華は今さらながらに南田が連絡先を教えてくれなかった本当の理由が分かった気がしていた。

 嫌がらせメールを華が受け取る懸念からだったのだろう。

 それに華も嫌だったから提案しなかったものの、スマホのアプリでも認証はできたのだ。

 手軽で人気のあるそれを南田が提案しなかった理由。

 そしてもしかしたら連絡先を教えなかった真実はこちらかもしれない。

 華のことを信用していなかったから…。

 華もいつか自分に嫌がらせするんじゃないか、連絡先を悪用するんじゃないか、そう考えられていたのかもしれない。

 やっぱり所詮はただの契約関係。

 そして今はそれ以下。

 ただただ悲しくなるだけだった。
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