24歳、恋愛処女
第四章
「……なあ。
兄さんなんかやめて、俺と付き合えよ」

壁につかれているのと反対の手が、私の頬を撫で顎にかかる。
親指が私の顎を持ち上げて、上を向かせた。

私を見下ろす、艶を帯びた理央さんの瞳。
緊張でからからになった喉に、ごくりと音を立ててつばを飲み込む。

なんでこんな状況に追い込まれているのか全く理解ができない。
今日もいつものようになれなれしい理央さんに戸惑いながら、話をしていたはずなのに。

 
 
荻原さんに対しての気持ちがもしかして恋なんじゃないか、そんなことに気付き、少しだけだけど、意識するようになった。

「ここのつくね、大好きなんです」

松本課長と飲みに来たあと。
程なくして、荻原さんにもこのつくねを食べさせたいと思ったことを、実行した。

「へえ。
そうなんですね」

銀縁眼鏡の奥の瞳が、にっこりと笑う。
意識しているからか、お酒が入っているからか、頬に熱が上がっていく。
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