アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「それに酒垂らすとよく眠れるぜ?」

「そうなの? でもわたしお酒…」

「果実酒くらいなら平気だろ、入れてやろうか?」

「じゃあ……」

 セィシェルはスズランからカップを手渡されるとミルクに果実酒を数滴垂らしかき混ぜてくれた。

「ほら」

「ありがとう。ん、おいしい!」

 さっそくひと口飲むと果実酒の良い香りがミルクの甘みと溶け合ってふんわりと鼻腔から抜けていく。

「眠れそうか?」

「たぶん…」

「スズ。あのさ」

 セィシェルが深刻そうな声で改まった。

「なあに?」

「……スズは、俺の事どう思ってる?」

「え!! ど、どうって…、急にどうしたのセィシェル?」

 思いがけない質問をされて軽く困惑する。

「急にじゃあねぇし……俺はずっと…っ」

「わたしは…! わたしはセィシェルのことも、マスターのことも家族だと思ってるよ! もしかしてセィシェルは…、ちがうの?」

「そう言うわけじゃあねぇけど、違う…」

「っ…そんな。わたし、セィシェルのことずっと本当のお兄ちゃんみたいにおもって…」

「っだから! それが違うんだって!!」

 幼い頃から何かと言えば口の悪いセィシェルとは何度も喧嘩をして来た。
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