《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~
 だがそれは自分の事を本当の家族として認めてくれているから、本当兄妹の様な絆があるからなのだと、勝手にそう思ってきたのだ。しかしそれを今、本人の口から違うと否定されてしまった。

「……ちがう、の?」

「っごめん。いや、違うんだ。そんな顔するなよ……」

「だ、だって…っ…」

 何がどう違うのだろう。セィシェルが何を言いたいのかが分からない。それは悲しみの雫となってスズランの瞳からこぼれ落ちた。

「な、泣くなよ。悪かったって……な?」

 セィシェルは慌てふためきながらもスズランの頭を撫でた。それでもスズランの涙は止まらない。
 こんな時にあの〝涙の止まるおまじない〟をしてくれたのは誰だったのだろう…?
 おぼろげにそんな事を思い出していた。

「……わたし、もう部屋に戻るね」

「待てって…! 俺が悪かったから…。だから俺が言いたかったのは…っ、はぁ…」

 引き留められたものの曖昧な態度でまごつくセィシェルの顔を見つめる。普段は視線すら合わせてくれないのだが、今回はその琥珀色(こはくいろ)の瞳と真正面からかち合う。不思議そうにその奥を覗き込むと不意に涙で濡れた頬へ口付けをされる。しかしそれは一瞬の出来事で、セィシェルはすぐ様スズランに背を向けてしまった。

「?! っ…セィシェル?」

「…っもう知らねぇ! とにかくそう言う事だから……」

「え? そういうことって…?」(どう…、いう?)

「知らねぇったら! もう寝ろよ、じゃあな!!」

 突然の出来事に驚いて涙が止まった。
 言葉の意味を理解しようとしても頭の中は真っ白になる。スズランは逃げる様に去ってしまったセィシェルの背中の残像を暫くの間ぼんやりと眺めていた。


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