アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 話の主体がいまいち分からないスズランだが、一番気になっていた事を思い切って訊ねる。
 スズランの問に一瞬驚いた様な表情を見せたジュリアンだったが、すぐに答えてくれた。

「あはは、元気って言えば元気だと思うけど? 今は少し忙しいみたいだよ」

「そうなんですね……」

 単純に忙しくて酒場(バル)に来られないのだろうか。それとも本当にもう此処へは訪れないつもりなのか……。

「あ、そうそう。例のマントね。あれもちゃんと手渡しといたから安心してね」

「ありがとうございます! もしかしてあの人もいそがしいですか? わたしどうしてもあの人にお礼を言いたくて…っ、それでお仕事の始まる前とか終わった後の時間を狙って毎日森に行ってみてはいるんですがなかなか会えないんです…」

「え…!! 本気で? 一度も会えてないの?」

「はい…。あれから一度も。ジュリアンさん、どうしたらあの人に会えますか?」

「はぁぁ~まじか。ったく、いくら忙しいたってこんな可愛い子を待たせるとか俺の(あるじ)は一体何やってんだよ……」

 ジュリアンは項垂れながら大きな溜息を吐いて小声で何か呟くと、急に頭を上げて今度はスズランの顔を覗き込んできた。

「…?」
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