アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 毎日開店前にセィシェルと顔をつき合わせては小競り合いをする所までがお決まりの流れになりつつある。

「アーサ様が暇なわけないじゃあない! 恋人に会いにこうして時間を作っては毎日お手伝いに来てくださってるの! はあ〜愛のなせる技って素敵〜! まるで恋愛小説みたい」

 ソニャが両手を頬にあてうっとりと瞳を細めた。

「何が『すてきぃ〜〜』だよ! 俺から言わせればこいつはただのロリコン王子だぜ」

「うっさい!! セィシェルは黙ってて! アーサ様、今日もこの後(ここ)でお食事されて行かれますよね?」

 前者と後者に対する態度がかなりあからさまである。セィシェルは眉間に皺を寄せ、その横で会心の笑顔を見せるライア。
 高速でやり取りされる三人の会話を必死に追うスズランの図が完成される。

「ん、ありがとう。じゃあいつもの席を。ああ、あとここではその名ではない方で呼んでくれると助かるな」

「はいっ、了解しましたライア様! とりあえず何かお食事とお酒をお持ちしますね。あ、ピクルスはちゃんと抜きにしますからァ!」

 ソニャは主張を強めに、軽い足取りで厨房へと駆け込んで行った。セィシェルも不機嫌な態度のまま渋々とソニャの後に続いた。
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