そのキスで、覚えさせて
彼を見た瞬間に、泣くと思っていた。
下手したら、失神すると思っていた。
だけどあたしは、ぽかーんとして彼を見るだけだった。
だってあたしの前にいる碧は、いつもの彼とは全てが違っていたから。
オレンジ系の色で長めのウェーブヘアに、鋭い瞳。
どこか色っぽくクールな彼。
そんな碧なのに……
藤井さんと一緒にいる彼は、なんと言うか……普通だった。
黒い短髪に、細いフレームの銀縁眼鏡。
おしゃれな柄シャツに、カーキのパンツ。
そんな彼は、子供みたいないたずらな表情で笑っていた。
「遥希、ごめんね急に来ちゃって」
なんて言って。
ご……ごめんね急に来ちゃって!?
何、そのほわーんとした話し方?
この人、本当に碧?
あたしはぽかーんと彼を眺めていた。