A・O・I
「あぁ!!ごめんなさいね!こんな所で、立ち話させて、どうぞ、上がって頂戴。」
「はい。」
たまに実家に帰って、マンションに戻って来た硝子さんがさせている匂い。
(ここの匂いだ。)
当たり前だけど同じ匂いがした。
自分には、そんな場所がないから、少し羨ましい。
後に続いてリビングに通されると、至る所に硝子さんの子供の頃の写真が、様々な写真立てに入れられて、飾ってあった。
「これ.....全部、硝子さん.....の。」
「そ~よ~!家は、一人っ子だったから、親バカでねぇ~。特にお父さんなんて、毎日の様に硝子の写真撮っててねぇ~。ここに飾れない写真が、物置にも沢山。」
「どれも、素敵な写真ですね。笑顔が溢れている.....。」
「フフッ...今は一人暮らしだけど、この写真のお蔭で、寂しくないのよ?」
硝子さんのお母さんは、そう言って、一際大きい額に入った写真を眺めて、少し寂しそうに笑った。
「この写真は...。」
「えぇ...。知っていると思うけど、これが葵。硝子の子供よ。」
トクンッ.....
静かに大きく、身体が脈打つ様に震えた。
全ての胸のつかえが外れた気がした。
何故あの時、硝子さんが俺を引き取ったのか?
赤の他人の俺に対して、与えてくれた無償に近い愛情、それは全て蒼(あおい)に向けたものじゃ無かった。
全部、一つ残らず、この写真の中で愛しそうに抱かれている葵に向けてだった。