A・O・I

久し振りの来客だったのに、なんのお構いも出来ないまま、あっと言う間に帰してまった。

少し残念に思っていると、火にかけていたやかんが音を立てた。


「あ~いたたたたた.....。もう何とかならないのかしら、この腰は...何するにも酷いわ。」


火を止めて、その足で仏壇に向かった。

中断していた仏壇掃除を思い出したのだ。

二つ並んだ遺影を眺める。


「あれから、もう23年経とうとしているのね.....。早いようで長かったわね。お父さん、硝子は元気に毎日過ごしているのよ。あの頃から考えたら、本当に信じられないわよね?これも、あの子が硝子の近くに居てくれるからかしら…...。」


葵の位牌は、硝子が一人暮らしが決まった時に、私が無理言ってここに置いて貰っていた。

お父さんが寂しがるから、一緒に居させて欲しいなんて、あの子の優しさにつけ込んだのは、葵への罪悪感を、少しでも和らげたい一心だったからだ。

葵には悪いけど、毎日この位牌を眺めて過ごしていたら、きっとあの子は先に進めずに、ずっと独りのままになってしまう。

それだけが老い先短い母親として、心残りだった。


「もうそろそろ、あの子にも幸せになって欲しいんだけどね~.....。お父さん、葵ちゃん、二人もそう思うでしょ?...何とかしてよ.....お父さん。.......フフッ.....ま~た、こんな事言っても仕方無いわね。さて、掃除機かけちゃいましょっ!」





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