sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜





ビル街を少し離れれば、公園を挟んだ向こうに高級住宅街が広がっている。

私の住む一軒家もそのなかにあり、今日は終業後まっすぐそこへ帰宅した。


「ただいまー……」


玄関で靴をぬいでいると、すぐに奥の扉が開いて出迎えてくれる家族がいる。

でも、それは父でも母でも兄弟でも、そして祖父でもない。


「あらあらお帰りなさいませ千那お嬢様。今お夕食ができますから少々お待ちくださいね」


しわがれた声で言うのは、派手な花柄ワンピースにひらひらエプロンを着けた、七十代の女性。

彼女は三田(みた)すみれ。この家で長年家政婦をしていて、私は子供のころから彼女を“みーちゃん”と呼んで慕っている。

両親を幼いころになくし、血のつながりのある家族は祖父だけ。

その祖父もこの家の住人ではあるけれど、仕事の忙しい彼は夜遅く帰ってきて朝早く出掛けてしまうため、ほとんど顔を合わせない。だから、私の一番の理解者は一緒にいる時間の長い彼女なのだ。


「いつもありがとうみーちゃん。あとで、ちょっと相談あるんだけどいい?」

「もちろんですとも! さては、殿方のことですね?」


瞳をきらりと輝かせ、みーちゃんがわざとらしく小声になる。

私とは違い、若いころに数々の大恋愛を経験してきたらしいみーちゃんは、この手の話が大好きなのだ。


「……うん。そんな感じ」

「まあ大変! 千那お嬢様もとうとう初恋に巡り合われたのですね! 言ってくれればお赤飯を炊きましたのに……」


全然違うけど、まあいいや。大げさで、明るくて、話好きなみーちゃんにはいつも救われているから。

私はくすくす笑いながら、みーちゃんの後に続いてリビングダイニングへと向かった。


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