ぼくのセカイ征服
僕は呼吸を整え、『激昂し、こちらに向かってくる男達』に対して…猛進した。逃げるんじゃなかったのか?だって?もちろん、そのつもりだ。しかし、自分一人だけ逃げるワケにはいかない。あの少女も連れて…逃げる!
幸い、僕は、足が遅くない。まぁ、速くもないのだが。いたって、普通。
しかし。
逃げ切る自信は、あった。僕はこの辺りの地理を熟知している。裏道なども使えば、追い付かれる事はないだろう。たとえ追い付かれたとしても、捕まる前に、近くの店に逃げ込めばいいだけの話だ。もっとも、店がある大通りまでは追い付かれてはならないのだが。

僕の突然の暴走に戸惑った男達の間隙を縫って(もちろん、多少は殴られたり蹴られたりはしたが)、僕は少女の下へと辿り着いた。
全速力の勢いを残したままの僕は、困惑する少女の腕を掴むと、男達を背にして、ひたすら走った。走って走って走って、走れなくなるまで走って、少し休んで、そしてまた走った。


…どれだけ走っただろうか、もはや男達は影すらも見えなくなっていた。完全に、振り切ったのだ。やった!助かったぞ!僕は、物凄く叫びたかったが、万が一の事があるといけないので、自重した。

「ふぅ…」

近くにあったベンチに腰掛け、深く息をつくと、さっきの緊張感が再び沸き上がってくる。本当に、僕はよくやったと思う。
しみじみと己の勇敢さを振り返りながら、僕は辺りを見回した。僕達が今いるこの場所は…『雲雀公園』か。ここ最近、まともに来た事はないな。遊具といった遊具もないし、本当に、『ガキがはしゃぐためだけに存在する公園』といったところだ。
まぁ、せっかくなので、水でも頂こう。
僕が立ち上がると、それと同じように、ベンチの隅で極力自分の存在を主張しないように努めていた少女も立ち上がった。僕の傍らにいるこの少女は、さっきから一言も発しない。助けてやったというのに、お礼の一つも言わないなんて、どれだけ不躾者なのか。喋れないわけでもあるまいし。
…まさか、僕は嫌われているのだろうか?自慢ではないが、僕は昔、『その顔、生理的に受け付けられないわ』と、異性から言われた事がある。この子も、そうなのだろうか?僕の顔はそんなに酷いのか?ああ、考えれば考えるほど、己の存在が哀れに思えてくる。
と、そこで。
ふと、素朴な疑問が一つ、心に浮かんだ。
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